Ⅹ.

 
 
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ーヴィンダン・セイラーの助言

恵まれた小鳥は、いつしかその時を待って

太陽に身を焼かれ、深淵なる渓谷に身を投じることになる。

だから君の質問に答えよう。

君は長い時間を経て、谷の最深部に到着した。

着ている服はすでに引き裂かれ、眼球すらも乾ききった身体はもはや時折一定のリズムで震える小指ですら、何の感情も示すことはないだろう。

そこで時間は存在しないだろう。1日目の偉大な目覚めはもはや君にその高く暖かな恵みを示さず、星々はその限りない神秘を君の前に差し出すことはない。

あの涼しげな夜の風は熱風となって君の肉を溶かし、あの樹々の隙間から漏れる暖かい風は、氷のように鋭く、君の骨を凍てつかせるだろう。

乾ききった目は光を認識できず、君はもはやそこがどこに何処に位置しているのかすらわからないだろう。そこでは一切の指標が失われているからだ。たとえどの位置から測ったとしても、君が感じ取れる全ては、時折かすかに漏れる君の溜息と嗚咽、そして浅い浅い息遣いだ。

そのうち君はそこが秩序立って心地よい場所だと思い始めるだろう。君は歳をとった気分になり、全てを理解したつもりになる。まるで元の場所に帰ってきたかのような安心感だ。

しかし君の中に微かに残る生命の振動は、そこにいるべきでないと伝え続ける。

身体の節々が砕かれ、心は行先を失い、疲弊しきった君はその振動が耳障りだ。自分に自信がないのだ。自分に自信がない君は別の誰かに助けを求める。

存在を保証して欲しいのだ。

しかし、いくら待っても、決してそこに助けは来ないことすら、君は既に知っている。

そう、必ずや助けは来ないだろう。君がいるその場所は全ての思い出から切り離されているからだ。全ての記憶。全ての血から。

厳かに語られてきた伝説や秘術ももはや文字列でしかなく、扉をくぐる前にあの最愛の人が残した言葉、この迷宮から戻るために君の口元に印した口づけを覚えていない。

命を授かったものたちは君に語りかけるのをやめ、血で黒く固まった額を石に擦り寄せても安らぎを与えられることはなく、震える手でやっと汲んだ水は君の心を満たさないだろう。

しかし君は旅立つのだ。飛び立つのだ。

君の翼はまだ柔らかく脆いがすでに生えそろい、乾ききっている。

谷の底で全てをなくした君は世界で初めて、君のために用意されている話を見つけ、今までに語り継がれてきた英雄の勲氏が君のためのものではないことを知るだろう。

無、それすらも血の契りを結んだ兄妹として、君自身が、君の勲氏そのものとなり、谷の奥深くに鋭く差し込む一線の朝日を合図にして

砕けた肩に残されたわずかな力を、その未熟な翼の羽根一本一本に染み込ませ

君は明朝、飛び立つのだ。

長い長い時間をかけて待ち続けた朝はもうすぐそこまできている。

時は来たのだ