Ⅲ.
ー白いワンピースを着た若い婦人
私たちは森を散歩していたの。
私たちが入り込んだ小屋はちょうど四人ぐらいが入れる小さなものだったけれど、ちょっとした雨宿りには十分だった。
もう既に床は無くなっていて、地面がむき出しになってたわ。昨日の雨のせいか土が嫌な音をたててゆくのがわかった。
音楽の話でもなんでもいいから僕と話してって彼は言った。
きっと怖かったのね。私は彼の手を握ってあげた。少し力が抜けるのがわかる。
暫くの間、その小屋の中で雨が通り過ぎるのを待っていると、土が少し窪んだところからあの人、何かを拾い上げたの。泥がついていてよくわからなかったけれど、あれはきっと少年の頭蓋骨だった。そしたら彼、いきなりそれを壁に向かって投げつけたのよ。
壁もボロボロで、ほとんどの衝立が抜けていて向こう側に緑が覗けるほどだったけど、勢いよく飛んでいった頭蓋骨はそのついたての一つにあたると、地面に転がった。
拾うと歯が取れかけているのがわかった。私たちは前から3番目の左前歯を触ってみると、ふっとその歯が抜け出してきた。歯の真ん中には穴が空いていてこそにはつちが詰まっていた。
私はその歯を私は手のひらに乗せて胸の高さまで持ち上げると、彼はその手を上から被せるようにして私の手を握りしめていた。
どれくらいだったかしら、しばらくそうやって握りしめていたわ。
暫く立って彼が手をどけると、歯は彼が子供の頃に好きだったワニの形をしたゴム人形の前脚になっていた。無理やりちぎったように片方の端がボロボロになっていて・・・、表面を触るとウロコのデコボコした感覚がまるで本物見たいで・・・。本当に、本物のワニようだった。
彼は泣いたわ。私を声を合図にして。
彼は私のスカートに顔を精一杯押し付けながら、今までにないってくらい子供みたいに泣いたのよ。
解放だって思ったわ。反逆者の姿はもうみえないんだわって。
彼の世界が動き出す一歩前であっても、その必要さえも、すでにいらなくなってしまっていたの。かわいそうな子。